黒魔術の手帖 (河出文庫 し 1-5 澁澤龍彦コレクション)

黒魔術の手帖 (河出文庫 し 1-5 澁澤龍彦コレクション)

この『黒魔術の手帖』は、ようやく私がオカルティズムの領域に近づき出した、まだほんの初心者のころに執筆されたもの

と文庫版あとがきにある。
内容は、占星術やタロット、ホムンクルス、黒ミサ、錬金術、ジル・ド・レエなどいろいろ、古文献などの渉猟から。

だいたい魔術というものは、どんな種類の技巧呪術であれ、決して一定した理論によってことごとく合理的に説明し切れるものではない。魔術を用いる人間がつねに問題なのだ。

とあり、これが著者における一貫した関心のありかを示唆するように思う。合理と非合理、神聖と涜神などのように相反すると考えられるものの構成が実は紙一重であり、それらにどうしようもなく関わらざるをえない人間精神の、ぶれというかどろどろしたものへの関心、嗜好。表現するに形容するに偏見を避けられないようなもの。

サド侯爵の生涯 (中公文庫)

サド侯爵の生涯 (中公文庫)

これを続けて今読んでいる。著者は伝説的なサド侯爵の人間に、とても好意的だし、ともすれば同情的であるように読める(実際、そういう記述だ)けれど、そう言ってしまうにはどうにも歯がゆい。神聖、理性、宗教心、それらと対照的に、禁忌されるもの、虐げられるもの、虐げられざるをえないもの、諸観念。人間精神のバランス。バタイユに繋がる「性」の広大、ダイナミズム。

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蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

概ね「年少文学」を集めたものとのこと。「トロッコ」が入ってる。小学生時に国語で読んだ記憶がある。でも、あれは部分的なものだったのだと、今回読み直して思った。オチじゃないけど、最後の断片部分があるとないでは、話が異なる。主人公である少年の心理描写が凄まじい。ありていだろうけれど、自分の経験とオーバーラップしてドキドキさせられる。
蜘蛛の糸」は元ネタがあって、話としては大体そのままらしいが、やはり諸説あるようで。ロシア民話のそれ(「一本の葱」)と、アメリカからロシアに逆輸入(トルストイによるとのこと)紹介されたもの、インドの仏教説話なら、更に古いだろう。どれがいわゆるオリジナルか、これらがどのように関係しているかはわからないみたいだが。
カンダタは蜘蛛を殺さなかった。これは一生謎だ。