リボンの騎士ネタバレ

しかし里田まいの不思議、男の欲望の直接的な対象になる、女性性、その延長にあるもう少し文化的な、いかがわしさ、下世話さ、淫靡を持ちつつ、はちきれんばかりの健康的なさわやかさも同時に持ってて、軽く混乱するけど、こういうのってそのまま今時の女の子ってことなのか。
 
ってことで以下ネタバレ。
 男と女二つの魂を持って生まれたサファイアの、その二つの魂を持つが故、一人の人間として、一人の女の子として時勢に翻弄されてしまう運命の物語。二つの魂を持つとはいえ、やはり女の子の話なんですね。主体的に女の子である、ということ。そしてそれがこの物語を大きく展開していくテーマであると。
 まず、主人公サファイアと大臣、魔女が相互補完的で、これは無論わかりやすく善悪の構図で捉えることのできるものです。ただしサファイアのほとんど一徹ともいえる正義・善に対して、悪役であるところの大臣と魔女はそれぞれ少なくない機微を持っている、それによってこの二者は深みのある魅力的な悪役になっています。そしてそのことが基本的な善悪の構図を相対化することになるでしょう。
 それぞれを演じる高橋愛吉澤ひとみ藤本美貴の演技は堂に入ったものでした。主要な役柄ということで、キャラクター自体が独立的でぶれがないってのもあるだろうけれど、それでもこの3人は凄かったです。気迫と技術がとてもうまいバランスだったのではと思った。たぁは、平素からの自身の頑固な技術論ともいうべきものがとても自然に昇華してた感があって、力みがない。堂々たる主役だよ。よっすぃ〜は伸び伸びやってたなあ。ニコニコしてたし。それでいてしっかり演技してたし。舞台に立つ喜びみたいなものを体現してた。みきてぃは特に唄がよかった。先にも書いたとおりいわゆるミュージカル的な唱法を全うするというよりは、本来のみきてぃの唄い方を踏襲、それを飛躍させてるといった感じで、これ以降に確実にプラスになるだろうと思うのだけど。そうそう、耳と鼻ってやっぱ関係してると思うから、あの宿命的な鼻炎を根治する方向でいけばいいのになと思う。両方の部位が唄唄うことに関係するし。
 この3人と後記する梨華ちゃんに共通する印象で、客席を見やる時の視線の対象が、具体的な客というよりは、抽象的な客で、なおかつその視線の質が亡羊ではなく、意志的だったのです。全てを遍く包含的に見つめる視線、とでもいったもので、とても強力であったことを付記しておきます。
 それから石川梨華演じるフランツ王子が物語の妙味です。ヲタ目線で言うなら、完全にはまり役。バッチリ梨華ちゃんですね。ナイス梨華ちゃん。彼女の個性とこの役柄がピッタンコですよ。物語の形式的な側面で言えば、この役が生み出すダイナミズムはそれ相応のものがあるので、そこを主なポイントにして語るべきなのかもしれんが、それ以上に石川梨華自身の魅力が光ってたわけで、ひょっとしたらこれは皮肉な事態なのかもしれないな。例えば技術論でも、演技全般において今までと違う飛躍的な向上を見せた石川梨華だったと判断するが、それ以前に石川梨華石川梨華であることに満足してしまってていけない、というか逆に梨華ちゃんに失礼なのだろうか、などと思ったり。それ程梨華ちゃんにピッタリなこの役、なっちとあややがこれをどう演じてくるのか、演出側がどのように演じさせるのか、興味深いところであります。
 以上の3+1のキャラクターが物語を主に牽引し駆動させていきます。この点、原作に基づくものなのかわからないけれど、とてもわかりやすく力強いです。逆に言えばこの4人以外は必然的に物語において脇役になってしまうわけだが、これは積極的に作品の強みであると思いました。必要以上にこの構図を肯定するつもりは勿論ないのですが、やはり4人以外の演者とそのヲタの心情には少なくなく過敏にならざるを得ないというところが、私自身の自意識過剰の一つの極みでもあるわけでして。やっぱり得心いかない以上のものもあるだろうと想像するもので。
 さてさて、次は家臣ナイロン役の小川麻琴ですが、彼女はめっちゃ素直な演技でした。でも、かなり難しい役だったのでは、と思う。というのは、キャラクターとしては、悪に徹しきるでもなく(あるポイントでは己が加担する悪をとても客観視した振る舞いをしていた)、大臣に脅迫的にあたられるわ、リボンの騎士に生命を脅かされるわ、そして国の将来を憂いたりもしたり、と単純に出演量に比例する情報量がこの役の内奥を表現するに対応し切れていない部分があったように思ったからです。大雑把な感情移入はできるだろうけれど、細かくトレースするには手が余る感じ。それでもまこっちゃんの普段からのあたふた感がにじみ出ていたのは好印象だったかと。
 大臣の息子役の久住小春は面白かったです。ピンポイントな役回りであったが、キャラが判然としていたと思う。親の心子知らずの奔放キャラ。そして何より、こは本人が演技の姿勢をとても見せていたのが印象的だったなあ。普段のこは的な要素はあるのだけれど、それ以上に演技をしようとしている、それも結構地に足が着いた演技。例えば真逆の悲哀のキャラなどを見てみたいなって思いました。どんな演技が見られるのか。
 次は牢番ピエール役の三好絵梨香。この役も難しかったと思う。何といっても、短い時間で改心しないといけないのです。その改心の動機とか背景とかあるにはあるのですが、ダイナミックな心理の動きだけに、表現が大変だろうと思った。これも単純に表現のレベルというよりは、出演量の問題になってくるところはあるでしょう。梨華ちゃんとののもこりゃ大変だろうと思うのですが、どうだろう。
 後は、新垣里沙亀井絵里道重さゆみ田中れいな岡田唯ですが、それぞれ本編では二役ずつかな。ピンポイントな役で、やはり出演量は相対的にどうしても少ないです。ガキさんと亀子は歌唱の面で目立ってました。声がとにかく出てた。れいなはその点もったいない気はしましたが。
 
 リボンの騎士という役(存在)がサファイアの一変装であること、もっというと一変装にすぎないということ、これは原作ではどうなんだろう。自体としてもっと出演するものだと思っていたので。役というよりはその象徴性が重要なのだとすれば納得ではあります。
 たぁは期するところ大だろう。それこそ一世一代。私はこのリボンの騎士サファイアという役をモーニング娘。高橋愛に恣意的に投影しています。私のモーニング娘。観ってそんな大げさな話ではないが、この二者は何かダブるものがあるような気がする。リボンの騎士はto beの物語であり、そのフィナーレはハッピーエンディングであり、女の子の夢であるが、さてモーニング娘。高橋愛は何者であるのか。芸能タレント、アイドルとしての総合的な面を無みにする気は毛頭ないけれど、殊一人の女の子のto beの側面で語られる、高橋愛、というものはきっとある。とまあ性急で無粋な締めです、長いお付き合いの程をありがとうございました。