#27

 
>たとえば、たとえばの話
>君が家に帰ったらそこにコンコンみたいなのがいたら
>君なら どうする?
 

                                                      • -

 
商店街は店先の冷房スポットを
影ふみ遊びのように渡るに限る。
何も買わない人にも何かを買った人にも平等に
家路は地獄の暑さだ。そして地獄からまた地獄へ。
家に入ったら息をするよりも早く冷房をいれよう。
玄関ドアを開けて、あれ?見知らぬ靴が3セット並んでいて、
涼しくて、そしてカレーのにおいがするわ。
いやいやこれは少し涼しすぎやしないか。
僕は幾分低すぎる室温のことを考えて何となく大きめにただいまを言うが
残念ながらそれは他人の声みたいに響いた。
居間からガキさんが僕の方を見て「おぉ」と言う。ガキさんだ。
 
「おぉおかえりなさーい」
「おぉただいま」
「おかえり!!」
「愛ちゃん、ただいま」
 
「ちょっと涼しくない?」
「まことがさあカレー作ってるんだ」
「んーみたいだね」
「暑いとルーの中に汗が落ちちゃうんだって」
「じゃあしょうがないな」
「おだいどこ暑いで〜す」と元気な乙女が応じる。
 
まこっちゃんのカレーは魅惑のカレーなんだ。
まず具が違う。スペシャル。
多分これがチーズで、これはかぼちゃで、これはえーと、なんだこれ
「何が入ってるのか聞くのは失礼だよね?これ何?」
「えー聞いてるじゃん。てか失礼じゃないよ、くつしただよ」
「どおりでダシきいてるってこらー」
「ウソだよ」
よっすぃ〜のくつした?なら話は別だ」
「いやだからウソだってば」
「ちょっと、こらーとのりつっこみを盗らないで」
「ァヒャヒャおいしいねー」
「ともかくさぁ、まこっちんの汗と涙の結晶だから。ケチつけんの?」
「やっぱ汗入ったか」
「おーい、意味が違うでしょ」
「ごめん汗入ったかも」
「おーいまこっちんまで」
「入ってへんて〜。おいしいよ」
「あなた、台本にルー飛んでるよ」
「あ、ほんとや」
「食べるか、読む、どっちかがいいよな」
「そう食べるか、読む、どっちかがいいよ」
まこっちゃんはかぼちゃを食べてばっかだけどな」
「だって好きなんだもん」
「2:8ぐらいでまこっちゃんの皿にかぼちゃが住まってるな」
「そう?」
「2が俺らで8がまこっちゃんね」
 
 
「あーでも」
「やっぱこんこんいないとさびしいよねえ」
 
 
 
しまった。
口を滑らした。
そんなこと全く言うつもりじゃなかったのに。
この3人今までついに一言もこんこんのこと口に出さなかったのだ。
それが意図的だったのかはともかく
僕が勝手に解禁してしまった。
その瞬間空気が固まった。
僕は
愛ちゃんがペロッと舌を出したのを見逃さなかった。
ガキさんが眉毛をきりっとさせたのを見逃さなかった。
まこっちゃんが最後のかぼちゃを急いで口に放り込むのを見逃さなかった。
 
いや
でもさ
大体何でこんこんのこと話しちゃダメなんだ?
別にいいじゃん。
 
そりゃこんこんは娘。やめちゃったわけで、
まあちょっと言い方が軽薄だったかな
「あーでもやっぱこんこんいないとさびしいよねえ」って
デリカシーなかった?
いやそんなことないよな。
うーん何で?
 
 
 
「誰が洗いもの当番だっけ」
何で?
「え、愛ちゃんでしょーが」
何でスルー?
「あたしはカレー作ったからねぇ」
何で?
「まーこーとー、冷たいなぁ」
何で?
 
 
 
「何でこんこんのこと話しちゃダメなんだよ!」
 
「何で?うしろめたいことでもあんのか?」
 
 
・・・しまった。
はやまった。
今度は決定的だ。
 
 
少しの無言の後
愛ちゃんがシクシクいいだす。
まこっちゃんはうつむき加減にお皿を
重ね始める。
そして
ガキさんが噛みつかんばかりに僕に言い放った。
 
「ちょっとあんた!」
「あんたに何がわかんのよ!」
「何なの?5期のことわかってるみたいな顔して」
え?
「何もわかってない!」
え?
「何?ほんとにあんたモーニング娘。のこと好きなの?」
そんな・・・
「今までちゃんと見ててくれなかったんじゃないの?」
・・・
「5年目だよ?」
「もういいガキさん
「こんこんの何を見てたの?」
「もういいよ」
「私たちの何を見てたの?」
・・・
・・・
・・・
 
僕は空っぽになった。
 
僕は5期の何を見てきたのか?
何も見てなかったんじゃないか?
何で見てなかったのだろうか?
5期に関心がなかったから?
そして
もう全ては終わってしまった?
 
 
ゴメンガキさん
ゴメン愛ちゃん
ゴメンまこっちゃん
ゴメンゴメンこんこん
ゴメン
 
いや謝る筋合いなんてないのだ。
謝ることなんてできやしない。
謝ることなんて・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
ガチャ(ドアを開ける音)
「ただいまぁ」
 
 
「うー涼しいなあ」
「はー今晩カレーでしょ。においがするよヘヘ」
 
(こんこんが玄関から廊下を歩いてくる)
 
「やばいもう帰ってきた」
「あんたのせいだ」
「もうかぼちゃないんだからね」
「あんたのせいだからね」
 
 
「ただいまぁ」
(こんこん居間兼食堂に入ってくる)
 
「もうルーしかないんだからね」
「もういいよガキさん
 
(こんこん鍋をのぞく)
「お芋いりですかぁ?」
「お芋は最初から買ってないんだからね」
「逃げよ」
(走り去る3人)
 
「あれぇ!ルーしかない!しかも少しだけ」
(こんこん口をとがらす)
「ちょっとどうなってんのよ?」
 
 
僕はガッツポーズを作ってこう言う 
「・・・5期最高!」
 
 

                                              • -
                                        • -

「たとえば君がコンコン編」の名無し娘。さん
並びに
id:couさんに感謝