かめいのかはんしん#15

あははははという嬌声、亀子の笑い声が夕映えに照らされる。
勝手にひとしきり笑った亀子はぅあーんと口を惰性的に開けて、
何故か今日に限って私にはそれが妙にカチンときたのだ。
この子の無邪気な意図(亀子においてそれは成り立つ)
にあてられた自分の情けなさ、それでも不可避的に感じざるを得ない
亀子の口角とベロのエロティックな構図から醸造される、性的誘引への
逆恨み混じりの怒り。そうこれは逆恨みだ。亀子に罪はない。
亀子のセックスシンボルは一般より微増の重力で私を捉えるあの
日本の女体だけではないのだ。原始日本人の女体。
私の奥歯は性器で、それが締め付けられるようにうずきはじめる。
 
「ねぇ何で絵里の口半開きかわかる?」
 
私は夢遊病者だ。
亀子の口に逆らえない。
まるで宇宙遊泳を終えた貨物船が
最後の慣性で母船にドッキングするように
私は亀子の口に、半開きのそれに
人差し指を滑り込ませる。
性器が指だ。
 
「感じてくれてもいいよ」
 
腰の裏側をじっとりとした
押し付けがましい木漏れ日の温みが覆う。
ふと性欲でさえも電気信号にすぎないんだと
他人事のように澄ましてみるが。
永遠の射精、宇宙の底。
時空を裏返して私は亀子になる。
 
瞬間的に私は亀子の口の中にいた。
しかしそれはごく当たり前の自然現象なのだと思う。
亀子の口の中から覗く世界は、宇宙は、曼荼羅
とても美しい!
布置された物々が全て遠近法に絡め取られて
その中を美しい女のコがこちらへ?ああ
あれは道重さゆみ
さゆが向こうからこちらに駆け寄ってくるのが見える。
眼前の思ったより鋭い八重歯に突き刺さるのじゃないかと
ドキドキした。
 
さゆは息せき切らせて泣いている。
「絵里、ごめんねごめんね」
 
「大丈夫、心配しないで」
私の頭で大声で喋ってる、亀子はさゆに優しいな。
 
「私のためにごめんね」
 
「さゆは何も心配しなくていいの!あと26人なんだから」
 

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私は何人目なのだろうと少し気に病んだ。